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2018.04.18

本当に住みたい街を選び、自分の好きな空間で暮らす時代へ〜SUUMO編集長 池本 洋一さん〜

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本当に住みたい街を選び、自分の好きな空間で暮らす時代へ〜SUUMO編集長 池本 洋一さん〜
住みたい街で理想に近い住宅を手に入れること。その上で庭や自然と過ごす生活を充実させていければ、日常はもっと豊かになりそうです。そこで知りたいのは不動産トレンド。今回はSUUMOネット編集長の池本洋一さんにインタビュー。 人口の推移やワークスタイルの変化によって起こりうる、2020年代以降の住宅のあり方やライフスタイルをお伺いしました。

株式会社リクルートで、住宅情報誌の編集、広告に長らく携わり、現在は主にSUUMOネット編集長として、メディアを通して住まい領域のトレンド発信を行なっている池本 洋一さん。不動産トレンドを時代の変化とともに肌感覚とデータで知り尽くしている存在と言えるでしょう。人口の推移やワークスタイルの変化によって起こりうる、2020年代以降の住宅のあり方やライフスタイルを展望していきます。

子供も親も家族の暮らしはリビングに結集!?

——最近の住宅に関する取材や講演ではどういうテーマが多いのでしょうか。

共働きが標準化してワークスタイルの改革が進んでいく中で、住まいのあり方がどのように変化していくかというテーマです。子供が部屋にこもらず、勉強したり、趣味をしたり、ゲームをしたりするのが全部、リビング。同じく、お父さんとお母さんの部屋も、結局、寝るだけにしか使っていない、だったら広さや機能を全部リビングにしよう、それを緩やかに仕切っていくことをリビングでの充実という意味で“リビ充”と言っています。

それと、2016年に初めて首都圏の新築マンションの供給数を中古マンションの契約数が上回りました。今は新築マンション価格が高騰し、供給が絞られているということと、これまで新築マンションが大量に供給されてきたので、中古マンションのストックがたくさんあって、売られるマンションが増えたという両面が相まって、逆転したんです。そういう意味で、既存住宅をどううまく活用していくかというテーマも多いです。売る側にとっては、きちんとメンテナンスをしたり、リノベーションをすると価値が上がり、買う側にとってはそれによって新築でなくても好きな家に変わる、ということです。そこからさらに派生して、×(かける)DIYについても、講演で依頼が多いテーマですね。

住宅とは最終的に家族が楽しく
コミュニケーションをとりながら過ごす場所

——80年代以降の首都圏での住宅の歴史を踏まえてみると、今はどんなところに価値を見出している時代なのでしょう。

一つは資産としての不動産という価値。それから、震災を経て家族の結びつきが再認識されたということがあって、それが先ほどの“リビ充”にもつながってくるわけですけど、住宅がどういう箱であるべきか?という時に、最終的には家族が楽しくコミュニケーションを取りながら過ごしていく場所だということが再認識されてきました。

さらに、共働きが増えているので、職住近接という志向も増えています。これも震災の影響があり、帰宅困難になった時、電車で1時間半かかる場所で自分が被災したら、親としては子供のことが心配でいてもたってもいられない。それが結果として、都市居住を進めていくことになったと言えます。敷地や専有面積が狭くなるので、リビングにつながっているバルコニーやテラス空間や屋内の植物にお金をかけることは合理的。そういう時代ではないでしょうか。

働き方の変化がもたらす、住みたい街に住むという選択

——2020年代、30年代では、働き方を含めて生き方そのものが変わってくると思うのですが、ライフスタイルとしての将来予測をどのように捉えていらっしゃいますか。

時間はかかると思いますが、ワークスタイルの改革によって、本当に住みたい街に住むということができる時代になってくると思います。例えばテレワーク(勤務先以外のオフィススペースでパソコンなどを利用した働き方)がOKなある会社のケースでは、逗子、葉山、鎌倉、軽井沢辺りに移住する人間が増えました。通勤する頻度が週5日ではなく、週3日くらいで済むことが見えてきた瞬間に、自分の暮らしやすそうなコミュニティに身を置くということが出てきたんですね。つまり、その街や風景やカルチャーが好きな人同士が住んでいて、自分が安心して身を埋めることができる。また郊外の中核都市は東京と比べても、本当の最先端はないにしても、何ら不自由ないくらいのお店は揃っている。そういったところに人口が集まってくるのではないかと思います。

もう一つは危機でもあり、チャンスでもあるんですが、80年代から90年代初頭にかけて造られた郊外ニュータウンが、利便性志向が高まり、やや不人気になって当時は7千万円、8千万円した住宅地が、今は2千万とか3千万円で買えるようになってきている。郊外のニュータウンというのは格安で買えるわけです。しかもリノベーションという手法が流行ってきたので、昭和デザインの一戸建てに今風の自然素材で手を加えたり、二世帯に改修するということができる。このムーブメントがくるかどうかが、郊外住宅地の流通活性化という意味ではとても重要だと思っています。10年で子供が戻ってこないと、小学校が廃校になるからです。

箱は安く、でもインテリアやエクステリアは自分好みに

——ところで今後、今の若い世代が住宅そのものを買う、所有欲というものは本当になくなっていくのでしょうか。

我々の調査によると住宅の所有欲はむしろ伸びています。「車をはじめとして所有欲は低くなってる印象だけどなぜ?」と思われるかもしれませんが、賃貸住宅の選択肢の中にデザイン、性能面で魅力的なものがなさすぎるんだと思います。今後、家も余ってきて、賃貸住宅も空室が増えることを考えると、住宅性能を高めることはもちろん、インテリア、外構やガーデンなどのエクステリアはもっと個性があってもいいのかなという気がしますね。今の若い層は、樹脂などのプラスチッキーな設備で育ってきているので、逆に木や石や鉄などの素材感に惹かれると言います。アパートモデルで素材感を生かした提案はもっとあっていいと思いますね。

個性的なデザインの方向性は戸建てにおいても同様で、箱はシンプルに安く作るんだけど、インテリアやエクステリアの部分に少しDIY的な要素を混ぜて、内装の仕上げ素材に10万、20万かけるだけでだいぶカッコよくなる。外構植栽においても、継続的に植物などいろんなものを追加して楽しさを実感してもらう、そういう方向性はありかなと思いますね。


自分や家族が住む街をはじめ、マンションでも新築なのか中古をリノベーションするのか、その選択肢は未来の働き方を含むライフスタイルが大きく関係しています。ただ、毎日通勤する必要がある人もない人も、生活の中心がリビングに移行し、リビングの延長として心地いいバルコニーやテラスを自分らしく演出したい気持ちにあまり差はないのではないでしょうか。

理想のライフスタイルを実現するために知っておきたい不動産トレンド。そこには未来の働き方が大きく関わっていることが池本さんの知見から窺えます。住みたい街はどこなのか。どんな空間で暮らしたいのか。実現のためにアンテナを張っておきたいですね。

プロフィール

池本 洋一

1972年滋賀県生まれ。上智大学新聞学科卒業後、株式会社リクルートに入社し、住宅情報誌の編集や広告を担当。現在は「SUUMO」ネット編集長。リクルート住まい研究所主任研究員、国土交通省や経済産業省と住宅政策を決定する場において委員も務める。

Text:石角友香
Photos:YosukeKAMIYAMA