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2018.03.07

情報化や移動性の発達で、自然と対峙し冒険できる時代~SIMONE INC.代表 ムラカミカイエさん~

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情報化や移動性の発達で、自然と対峙し冒険できる時代~SIMONE INC.代表 ムラカミカイエさん~
住宅の購入やガーデン・エクステリアの充実と、デジタル技術にはどんな因果関係があると思いますか?そこで今回はブランディングで日本のトップを走るムラカミ カイエさんにインタビュー。デジタル技術と暮らしの関係に造詣の深いコンサルティングに関する専門知識をお伺いしました。その知見から未来のライフスタイルを探ります。

今回はブランディングで日本のトップクラスを走るSIMONE INC.代表取締役のムラカミカイエさんが登場。イッセイミヤケのファッションやプロダクトデザインをはじめ、ウェブデザインやインターネット上でのファッションショーの生配信なども手がけ、2001年に独立。その後、ファッションやビューティーに特化したブランディング・エージェンシー、SIMONE INC.を設立しました。近年では自動車メーカーのコンサルティングや、百貨店などの事業開発にも携わっています。デジタル技術の発展によって社会情勢が刻々と変化する中で、ムラカミさんが考える情報価値、そして次世代消費者に起こる環境の変化などをお聞きしました。

最も求められているのは、人それぞれにフィットした情報価値の提供

——まず、ムラカミさんが手がけていらっしゃるプロジェクトで最近大きな動向はありますか?

ここ十数年、インターネットの影響で世の中の価値観がガラッと変わってきたという状況があります。そんな流れから、「今後はこういったものが世の中に求められるのでは?」といった、企業の押し付けではない社会共生型の事業提案やブランディングを求められる機会が多くなってきました。

大きな潮流だと、物質的な豊かさから、ソーシャルグッドに代表される精神的な充実感への変化ですね。例えば、今まで百貨店フロアのほとんどが服飾売場だったのが年々減って、生活に根ざしたフードやリビング分野の商材が増え、ビューティーもインナービューティー寄りの商品に変わってきています。そういったなかで、人それぞれにフィットした多様性の高い情報価値の提供が求められてきています。

適正価値を提供する、無駄のないモノづくりが世界的に広まっていく

——変化の速度も速い今、3年、10年先のことをどうやって予測されていますか?

よく聞かれるんですが、ここまで目まぐるしいと、正直予測なんてできないですよね(笑)。いろいろな論文は読むようにしてますけど、「人間って、どんな世界を望んでいるのか?」っていう自分の楽観的希望も含めた妄想みたいなものから逆算して考えるようにしています。

いま様々な膨大な量の情報がネット上にはあるわけですが、結局、社会合理性が高いコンセプトを持ったものだけがグローバル・スタンダードとして残っていく。そしてそのスタンダードは目まぐるしいスピードで更新され続けています。

例えば、私が担当している「Mame Kurogouchi」というファッションブランドでは日本中の失いかけている技術や職人技を掘り起こして服にしたり、縮小している国産蚕産業に再注目して、その繭糸を使った生地でモノ作りをしています。経済合理性を考えると、シルクはブラジルや中国の生産量が圧倒的で、あえて高価になってしまう日本のシルクを復活させる意味ってないんですね。ただ、文化合理性から考えると意味合いが全く変わってきます。日本から蚕や繭から食品や医療タンパク質への加工技術が生み出せていることも、こういった衣服に使われるための第一次産業が残ってきたからです。

温故知新と言いますが、僕らは、文化というものの価値を改めて見直すべきです。それは膨大な知識の宝庫であって、挑戦と失敗による研鑽の歴史でもある。そこから学べる教訓は、真の合理性というものについて気がつかせてくれるはずです。こういった考え方や発想の仕方を柔軟に自分のモノ作りや、仕事に取り込むようにしています。

——淘汰されるものと失ってはいけないものの線引きって難しいですよね。

少なくとも僕らが考えていかなければならないのは、人が目的意識をもって向かえる仕事を作り、それを耕し、幸せに食べ過ごしていける社会を作っていくこと。その為に未来がどう変わっていくべきか、それを他人任せにしないで、仮説を立てて、人や企業を巻き込み、実行していくことでしかないんですよね。 そういったモノづくりに関わることで、子供たちに「こんなことやっていたんだよ」って、誇りに思ってもらえたらいいなあって思っています。

移動が活発になっていく時代、家はよりパブリックなスペースに

——人間と住空間の関係の変化はどうなるとお考えですか。

住空間のみに絞れば、よりパブリックな場所になっていくと思っています。これだけトラフィックコストが安くなって、徐々に言語の壁が取り払われつつあるなかで、一つの住処や国にずっと住み続けることだけが選択肢ではないと思います。加速度的に進むIoTは、家のオーナーの管理負担を軽減し、居住者個々へのカスタマイズを容易なものにしていくでしょう。家をパブリックな空間、または空間資産として考えると、戦後ずっとマイホーム所有幻想に囚われてきた日本人は、より自由に、自分にフィットした場所で生活できるようになれるはずです。

自動運転やドローン配達でリアリティを増す、地方での暮らし

——社会の変化と住まい方の関係についてはどうでしょう。

パッと思い浮かぶことだと、自動操縦車やドローンの時代への変化がもたらすインパクトは大きいでしょうね。

例えば、ドローンによる物資配達や、自動操縦の車が発達していくと、距離や場所、時間にとらわれない、より自由な住み方ができるようになります。例えば、地方や過疎化で問題になっている人里離れた山間部に住むこともできるだろうし、中央集権的で高コストになりがちな都市型生活への疑問が湧いてくることもあるかもしれない。

この時代は、僕らに想像もつかなかった人生の選択肢を与えてくれます。今後もイノベーションが想像を上回るスピードで、僕らの生活観を揺さぶり続けていくはずです。これをどう面白いものだと捉えて、うまく活用していくかが、21世紀を楽しむ秘訣だと思います。

——そういう時代も見えつつ、今の10代後半や20代は海外にもあまり行かなくなり、インターネットで調べられるからそこで完結してしまいがちと言われます。それについてはどういう風に考えていますか?

ミレニアルズ世代の好奇心や行動力って、むしろ僕らなんかより柔軟でフットワーク軽いと思いますよ。大人はみんな心配していますけど(笑)。日本の文化的な閉鎖癖は言語の問題が大きいと思っていますが、ミレニアルズはスマホや翻訳アプリを使って、柔軟に適応しています。

今は、20世紀以前とは比較にならない規模で人が移動している時代です。それに加えて、インターネット上では、主義や思想、カルチャーなど同じ趣味思考を持った人たちが、国境や言語を超えて繋がりはじめています。過去、人が大きく移動するとき歴史が変わってきましたが、いま起こっていることはそのインパクトを遥かに超え、従来の国家や民族、家族と呼ばれてきた単位を超える結びつき、つまり、生い立ちや宿命を越えていくことさえあります。この目まぐるしい変化と可能性をどう捉え、行動していくのか、この状況を把握して向かう方向を間違えなければ、大きな可能性やチャンスを秘めた刺激的な時代に生きていることはとてもいいことなのです。


情報によってこれまで壁だと思われていたもの——言語や人種、文化を超えていく時代。より容易に移動し、世界中と交流する人たちがビジネスでも個人でも増えていくプロセスをすでに生きているムラカミさん。彼が今の10代、20代というミレニアルズたち、つまり情報の駆使の仕方を知る世代は、いずれ活動的になるだろうという予見は、日本の企業、ブランドの変化も自ずと求められているということではないでしょうか。合理性と精神的価値、この両輪をいかに回すか?はすでに目の前にある課題と言えそうです。

プロフィール

ムラカミカイエ

1974年、静岡県生まれ。1994年、株式会社三宅デザイン事務所に入社。ファッション、プロダクト、広告など様々なデザイン業務に係る。2001年に独立、2003年にブランディングカンパニー、SIMONE INC.を設立。ルイヴィトン、資生堂、三越伊勢丹、メルセデスベンツ他、国内外の企業ブランディング、コンサルティングを手がける。東日本大震災時は「SAVE JAPAN!PROJECT」の発起人も務めた。

Text:石角友香
Photos:大石隼土