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2018.01.31

不便だけど幸せなものは残っていく――「機嫌がいい人」でいるための新しい価値観 〜「&Premium」編集長 芝崎 信明さん〜

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不便だけど幸せなものは残っていく――「機嫌がいい人」でいるための新しい価値観 〜「&Premium」編集長 芝崎 信明さん〜
日々の生活を自分流にカスタマイズし、自然とともに穏やかに暮らしたい。そう願う人は少なくないでしょう。そこでライフスタイル誌の編集者、人気のガーデナーたちがどんな情報発信をしているのかは、私たちにとっても有用です。そこで今回は「& Premium」編集長の芝崎 信明さんにインタビュー。今、より良い生活を求める読者とともに見据えている未来の暮らしとは何か、お伺いしました。

「THE GUIDE TO A BETTER LIFE」を標榜、2013年11月に創刊し、堅調な支持を集める女性誌・ライフスタイル誌「&Premium」。編集長を務める芝崎 信明さんは、マガジンハウスに入社後、「POPEYE」や「BRUTUS」などの編集を約24年間担当。いわばカルチャーとライフスタイルを長年先読みしてきた存在です。その芝崎さんが、今、より良い生活を求める読者とともに見据えている未来の暮らしとは何か?「&Premium」の性質や読者の動向から読み解いていきます。

心地よさは年齢でセグメントされない時代

——まず、芝崎さんが2013年に「&Premium」を創刊された背景をお聞かせください。

年齢で雑誌をセグメントするやり方というのがありふれていて、本来、雑誌は雰囲気や気分が好きといった、自分の好きなもので選ぶものではないのかな?と思ったんです。

実際、自分の周りにも年齢とか家族構成でセグメントされたくない人がたくさんいたので、そういう雑誌の市場はあるとずっと思っていました。「&Premium」では“ベターライフ”という言葉を使って、そういう志向の人たちの本を作ろうと考えたんです。

——読者の性質が変わってきたとか、市場的にも大きくなってきたとか、そのあたりはどう捉えていらっしゃいますか?

雑誌は消費の行動が変わってくると、新しいタイプのものが出てきます。私は、「&Premium」を創刊する時に、「ゴージャスより上質」、「ほっこりよりときめき」、「効率の良さより心地よさ」という3つのスローガンを掲げました。ゴージャスより上質に価値を感じたり、ほっこりの安心感に飽きて、もうちょっとときめきが求められたり、便利なことが幸せとは限らないとみんな気づいてきて、心地の良さの方が優先される時代になったと感じて、スローガンを決めました。

モノが増えることを否定しない。それをどう“整える”か?

——住まいの観点では、読者の皆さんはどんなことに関心度が高いのでしょう。

「部屋を整える」という特集は毎年1月に3年続けて出しています。断捨離のようにモノをできるだけ少なくするのが流行っていましたが、それより、モノがあっても整っていればいいと思うのが「&Premium」なんです。モノがあるとかないとかの良さはどちらでもいい。 部屋が整っていることは心と体に繋がっていて、逆に心と体が整っている人は部屋も整う。そこに心地よさがあると思うのです。

自分で作ることの楽しさとか、嬉しいとかは「自分で作るとめんどくさい」を超えたいいものなんでしょうね。時間の使い方の変化だと思いますが、生きるために必要なものとは違って、必要じゃないものに対しては愛情がないとできないですから。 手仕事や家事、手間がかかるというのはネガティブな言葉だったのですが、今はポジティブな言葉かもしれない。手間をかけるって「手と時間」なんでしょうね。手を動かす時間というのは本当は楽しい時間です。手間暇かけていないものが増えてしまって、つまらない。だから掃除するのが面白くなったり、雑巾掛けが楽しくなったりするのかもしれないですね。

不便だけど幸せなものは残っていく、それは植物のある生活にも繋がる

——手間をかけるということで、植物に関していえばリースを作るだとか、ワークショップがすごく人気な印象があります。

花に関する仕事をしている人たち(フラワーアーティストやフラワーコーディネーター)は「&Premium」においては読者の憧れの存在です。素敵な花のことしている人は素敵な服を着ているし、素敵な料理作っているし、素敵な映画見ているだろうし、と興味が湧くのです。

毎日花を切らさないって結構大変で面倒なことかもしれないけど、その面倒さが楽しいことになりつつあって、家に花を飾っている人は増えている気がします。「&Premium」は、創刊からずっと毎号巻頭の編集ページが花なんです。それは、花のことをいつも考えている人って素敵ですよね、という私の主張でもあります。実は、「&Premium」の裏テーマは「機嫌がいい人」なのですが、花があると人はだいたい機嫌はいいでしょ?大部分の人は微笑んでしまうし、綺麗だし、花の匂いはだいたいいい匂いですし。

家に帰って来て最初に見るのが花という生活を素敵だなと読者の方々もみな思っているのではないでしょうか。余裕があるからやるわけではなくて、何かを犠牲にしてでもそれをやりたい、生きる上でそういうことも必要なのだ、という考え方なのだと思います。

——花も含めてグリーンということなのか、植物なのか、もう少し広げて見ると自然なのか、線引きはありますか?

線引きはないと思います。花が好きな人はグリーンも庭も森も好きだと思うのですけど、そういう人が増えているし、自然が身近にないと生活のバランスが取れなくなっているのを感じます。植物だけではなくて、例えば光が入るとか風が通る家は理屈じゃなくて気持ちいいんだと思う、プリミティブ(本能的)な感覚で。家に対して、自然と一体になっている快適さ求め出したのだと思います。

かつて、便利な都会にスタイリッシュな家があれば楽しかった時代があったのですが、それが快適ではなくなった。昔の人が、自然には神が宿っていると考えたくらい自然を大切にしていたのと同じで、大きな地震や災害もありますが、現代の私たちも自然の怖さだけでなく優しさや恵みで生きていることを自然観として持っているのだと思います。

大きな地震は、消費の仕方や時間の使い方にさまざまな影響を及ぼしました。例えば花や庭がそばにあるっていうのは面倒かもしれないけど、その面倒を通り越した、自然にちょっとでも近づくよさがあるというように人々のマインドが変化しているのだと思います。

——これから2020年代、30年代はどういう世の中になって行くと予測をされますか?

家でもオープンエアのスペースを作ったり、ベランダを充実させたり、そういう気持ちいいなと思えることに興味を持つ人たちが、これからさらに増えていくと思います。今後も便利なものはどんどん出てくるんでしょうけど、便利だけど幸せじゃないものは排除されて行って、便利で幸せなもの、不便だけど幸せなものは残ると思います。それが植物のある生活に繋がっている気がするんですよ。


自分の生活をよりよくするための、ちょっとした手間、そして実現可能な憧れの存在。それらが連動して、家の中のオープンエアな空間や、植物を育てること、庭の手入れなどにも行動が広がっていくのは必然的なことに思えます。また、植物がよく育つ環境は、人にとっても「機嫌よく過ごせる」環境。IOTの進化に伴い、人はさらに五感や情緒を満たす生活を求めていくのではないでしょうか。

プロフィール

芝崎 信明

1989年、マガジンハウス入社。「POPEYE」「BRUTUS」編集部を経て、2013年11月「&Premium」を創刊。2015年11月にはウェブサイトandpremium.jpもスタートさせた。

Text:石角友香
Photos:大石隼土