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SCENE

2017.11.22

すぐそこにある自然〜東京緑景〜

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すぐそこにある自然〜東京緑景〜
自然が共存する都市、東京。じっと立ち止まって観察すれば、その一つひとつに異なる表情、色彩があることに気づかされます。そんな身近にある自然の姿を求めて、山や自然を撮り続けている写真家の野川かさねさんに、都内の屋上庭園を散策してもらいました。

緑は自分の感覚を取り戻してくれるもの

小さい頃から歩くことが好きでした。考えごとがあったり、特に思春期特有の悩みを抱えたりした時代は、とにかく歩きました。ヘッドフォンをしてカセットテープの音楽を大音量で聞きながら、目的地もなくひたすら歩く。1〜2時間は当たり前。今振り返ると、歩きながら考え、もやっとした気持ちを歩くことで解消していたように思います。歩くのに疲れてきた頃、ヘッドフォンをはずし、歩みを止める。気持ちがすっと落ち着いているのに気付き、同時に塞がれていた耳と心がいろいろな音と風景を認識し始める。空の色、植物の形。夜風が肌にあたる。自分がじんわり汗をかいていることにも立ち止まってやっと気づくほどでした。

東京の街に生活の拠点を置き始めて、私は周りの音や景色をシャットアウトしてしまっている時期がありました。全ての感覚を開いた状態でいると、人のたくさんいる電車や交差点をスムーズに歩くことができないのがその理由だったと思います。そうやって、東京という街に住む術を自分なりに身に付けたものの、そのうち意識的に感覚をシャットアウトすることが癖のようになり、それはもはや無意識に近いものになっていきました。

そんな私がふとしたきっかけで山という存在に出会いました。それからは、ほとんど中毒のように山のことしか考えられなくなり、山登りに、山の写真を撮ることに、そして山という存在にどんどんと夢中になっていきました。時間がある限り、街から山へと通い続け、街にいるときもひたすら山に思いを馳せる日々。最初こそは、今までの生活にない風景の新しさに夢中でシャッターを切っていたように思いますが、次第に自然や風景と対峙しているというよりも、むしろ寄り添うように写真を撮影していることが多くなっていきました。いろいろな角度から確かめるように、山肌や植物、水の流れを見つめてシャッターを切る。それは、自分の中の感触を確かめるような作業へと変化していきました。

私は山へ行けない日々が続くと、その感触を求めて、街でも緑の多い場所へ足を運びます。その中でも、デパートや商業施設の屋上庭園は私のお気に入り。ベンチに座り、空を眺めると、次第に喧騒は遠ざかっていき、塞がれてしまっていた目と耳がゆっくりと開かれていく。自分の感覚が戻っていく感触。深呼吸をすると、鼓動が聞こえます。整備された空間には、さまざまな植物が育ち、よく見ると雑草の姿もあります。

太陽が雲から顔を出す。植物の影が強く、地面に落ちる。木の葉が風に揺れる。空を眺めて、明日の天気を思う。ただそれだけの時間ですが、それは何にも代えることのできない贅沢のように思えます。

自分の中の感覚を呼び戻し、目を開いて、耳をすます。まわりの景色に寄り添いながら、日々を過ごしたい――。そんなことを東京の街のど真ん中、緑の庭園のベンチに座りながら、思ったのです。

流行の発信地に佇む高木の森〜おもはらの森〜

欅や桂などの高木を配し、鳥の巣箱や水飲み場をつくって日本鳥類保護連盟主催の「バードピア」に登録。人・自然・生き物をつなぐ森づくりに取り組んでいます。

  • 鳥たちのさえずりが心地よい空間。
  • 木陰に寝そべり、空を見上げたくなるベンチ。
  • よく見えるとどこからか飛んできた植物が芽を伸ばしています。
おもはらの森
住所 東京都渋谷区神宮前4-30-3東急表参道原宿6F
電話 03・3497・0418
営業時間 8:30~21:00
※営業時間は時期により異なります。

旬の花々が迎えてくれる水辺の園〜食と緑の空中庭園〜

印象派の画家クロード・モネが愛したノルマンディーの「ジヴェルニーの庭」、モネ晩年の大作『睡蓮の庭』にインスピレーションを得て造園。植栽は季節ごとに植え替えられ、常に旬の花々が咲き誇ります。レストスペースにはフードショップも併設。

  • 季節ごとに違う薔薇たちが目を楽しませてくれます。
  • 秘密の池を発見。水に浮かぶ植物をじっと観察。
  • 人工物と植物が同居する姿が、東京という街の姿なのかもしれません。
食と緑の空中庭園
住所 東京都豊島区南池袋1-28-1 西武池袋本店 本館 9F 屋上
電話 03・3981・0111(代表)
営業時間 営業時間は時期により異なります。
プロフィール

野川かさね[写真家]

山や自然の写真を中心に発表を続ける。写真集に『山と鹿』(ユトレヒト)、著書に『山と写真』(実業之日本社)、共著に『山と山小屋』(平凡社)、「山・音・色」(山と渓谷社)などがある。自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット「noyama」やクリエイティブユニット「kvina」としても活動中。