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2018.09.28

株式会社そとや工房・滋賀栗東店 店長代理チーフデザイナー 辻󠄀紗恵子さん【前編】

自然の中で、おだやかな時間を過ごせる庭づくりをするのがデザイナーの使命

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自然の中で、おだやかな時間を過ごせる庭づくりをするのがデザイナーの使命
日々の暮らしや住空間に物足りなさを感じているなら、それは“お庭”で解決できるかもしれません。天気に関わらず洗濯物を干せる場所が欲しい、日当たりのいい場所でくつろげる時間が欲しい、家庭菜園に挑戦したい、雑草対策など手間のかからないお庭にしたい……。お庭を活用して、自然を取り入れた豊かな生活を送るためのヒントを日本各地のお庭づくりのプロフェッショナルに伺いました。

滋賀と京都で約7,000軒の施工実績を持つ株式会社 そとや工房。「俺の仕事は外や」という誇りのもとに社名を決めた創設者の思いと共に、10名中8名という女性デザイナーを代表して、滋賀栗東店のチーフデザイナーの辻󠄀 紗恵子さんに庭づくりの魅力をたずねました。

「デザイナーは感覚的な部分で色彩の使い方が巧み」

創業から18年。本社がある滋賀県はもちろん、京都や大阪にも数多くの施工実績を持つそとや工房。お話を聞いたのは、そとや工房滋賀栗東店の店長代理にしてチーフデザイナーの辻󠄀 紗恵子さんです。 「社内プレゼンで優秀賞に輝いたこの人のデザイン、特に水場の造りが本当に美しかったですよ。まるで海のような癒しを感じました」 そう喜々として話してくれたのは、そとや工房の社長、西原 肇さんです。西原さんは、そとや工房を含むグループ会社からの異動で2018年6月に現職就任。以前は部材メーカー勤務だったので、エクステリアデザインに関する勉強は始めたばかりとおっしゃっていましたが、辻󠄀さんのデザインで庭のおもしろさに魅了されたようです。

  • そとや工房様 滋賀栗東店 店長代理 チーフデザイナーの辻󠄀 紗恵子さん

今回、そとや工房を代表して辻󠄀さんに庭づくりの魅力やヒントを伺ったのは、そとや工房が女性中心でエクステリアデザインを進めるという特徴を持っているからです。デザインチームで女性の起用を重視した理由を、創業者の北居 伸夫会長に伺ってみました。

「実は奥様の方がガーデンプランの実権を握っていたりするでしょう。であれば、女性同士の方が通じ合える部分が多い。それから、感覚的な部分で色彩の使い方が巧みなんですね。常々、日本の家は色が乏しいと思っているんです。そこに男性的で重厚なエクステリアを持ち込むと、どうしても固い印象になる。それが必ずしも悪いわけではありません。実際に僕もデザインをしていましたが、効率を優先するせいか、どうも直角が目立ってしまうんですね」

そう言って北居会長は破顔一笑。しかし、それはさすがにご謙遜でしょう?

「最初に入ったデザイナーは、何というか、くにゃ~っとした絵を描いたんですよ。僕には全く思いつかないデザインだったけれど、現場では受け入れられた。それを機会に女性デザイナーを重用するようになりました。もちろんお客様の要望内容に応じてデザイナーを起用しますし、重厚なエクステリアデザインもできます。ただ、これは僕の考えですが、家や庭は帰る場所だから、人を優しく受け入れる雰囲気を醸し出していた方がいいですね」

庭も含めて家、窓から見える景色もインテリア

会長のお話を聞いたところで、もう少しだけそとや工房の成り立ちを説明します。 「個人宅のより良い住環境デザイン」を目指して設立されたのは2000年。その3年前の1997年、当時建築業に従事していた北居さんは自宅の建て替えを決意し、ハウスメーカーや工務店などに声をかけ、新しい住まいの建築プランを求めました。ところが、どのプランも敷地いっぱいに家を配置し、外構に関する提案は一切なし。 庭も含めて家ではないか? 窓から見える景色だってインテリアの一つじゃないのか? 内から見る庭、外へ見せる庭、家族が楽しむ庭。そこまで考えての間取りではないのか? そうした北居さん自身が住まう人間として抱いた疑問を解消すること。それ以上に、より多くの人に個々の趣味やライフスタイルに合った庭づくりを提案したいという強い願いのもとに、自ら外構を請負う会社を興しました。ちなみに社名は、人に職業を聞かれたとき、「俺の仕事は外や」と答えるためにつけたそうです。

美大出身のデザイナーは大の庭好き

そんなユニークな創業者がいるそとや工房でチーフデザイナーを務めている辻󠄀さんもまた、「庭が大好き」と話す興味深い方でした。

「特に好きなのは、代々庭師を受け継ぐ小川 治兵衛の7代目が作庭した京都の無鄰菴(むりんあん)です。明治政府で首相になった山縣 有朋の別邸ですが、庭の中につくった川の流れと、芝山の起伏が特徴的なんですよ。それから、『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』でも常に上位にランク入りする福井の養浩館(ようこうかん)。そこの庭園は、池を中心にした素晴らしい造りです」

さんの庭園談話は尽きませんが、ここで辻󠄀さんがそとや工房に入社した経緯を紹介します。工業デザインや景観デザインを学んでいた美術大学時代に実施された、産学連携のポストデザインコンペティション。その事業にそとや工房が参画していたことで名前を知ったのが最初の出会いでした。卒業後はいったん別の会社に就職。そとや工房の京都店オープンに合わせた求人情報を見て、「学生時代を思い出して」入社を希望したそうです。

「美大時代とまるで違ったのは、デザインしたものが形になりお客様の手に渡る責任感です。やはり作品づくりと仕事は別物ですけれど、実際にできあがったお庭を見てお客様が喜んでくださると、とてもやりがいを感じます」

自然を取り入れる、その知恵やヒントは日本庭園

そとや工房に勤めて10年。今やチーフデザイナーとなった辻󠄀さんに、自然浴生活を軸にした庭のあり方をたずねました。

「「先にお話しした無鄰菴や養浩館は、いずれも枯山水ではなく実際の水を利用して水景を施した庭園です。中でも養浩館庭園は、数寄屋造りの建物に池が面しているので、水に反射した光が天井に映るんですね。その室内に外の水景を取り込んでしまう発想に胸を掴まれました。畳にゴロンと寝転んで、そのゆらゆらととした輝きを眺めたくなる。そんな風に人を駆り立てる情景をつくり出せるなんて、本当に見事だと思いました」

西原社長が褒めた辻󠄀さんの社内プレゼンデザインにも水景があったそうですね?

「はい。でも、残念ながら社内コンペ用の作例なので実際の施工には至っていませんが。いずれにしても美しい庭を眺めていると、庭の内側では時間が本来の流れを取り戻すような、そんな気分になっていきます。視線は外に向かっているのに意識は内向きになり、何とも言い難い充実した気持ちになれる。そして、今の自分に何が大事なのかシンプルに見えてくる。自然浴生活で重要なのは、そうした心持ちだと思います。実際のエクステリアデザインでは、緑を豊富に植えられなかったり、ましてや池や川をつくれる機会は滅多にありません。しかし、要素としての自然物を取り入れることだけが自然浴生活を成り立たせるわけではなく、庭の存在によって自分に戻れる時間や、おだやかな時間が過ごせるよう工夫をすることが私たちデザイナーの役目ではないでしょうか。そんな使命感を掻き立ててくれるのが伝統的な日本庭園なのです。昔の人は、自然に対する観察眼や、自然を庭に表現するのが驚くほど上手です」

辻󠄀さんの庭好きは個人の趣味でもありますが、好きな感覚を論理的に分析し自然浴生活を始めとした仕事に活かすところは、さすがプロフェッショナルだと感服しました。後編では、庭づくりで常に心掛けるポイントを中心に、辻󠄀さんのガーデンデザインの神髄をたずねます。

プロフィール

辻󠄀 紗恵子

1985年生まれ。株式会社 そとや工房 滋賀栗東店 店長代理 チーフデザイナー。成安造形大学卒業後、そとや工房滋賀栗東店に入社し、エクステリアプランナー1級デザイナーとして活躍する。自身も大の庭好きであり、特に日本庭園からデザインのヒントを得ることが多く、「お客様がおだやかな時間を過ごせるお庭づくり」がモットー。CADソフトメーカーのデザインコンテストで数々の賞を受賞。


HP:https://sotoya.jp/

Text:田村 十七男
Photos:松嶋 仁