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2018.09.28

株式会社 美興プランニング・代表取締役 髙本 興さん【前編】

プランにいつも取り入れようとするのは、朝食のリビングから窓越しに眺める美しい庭の景色

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プランにいつも取り入れようとするのは、朝食のリビングから窓越しに眺める美しい庭の景色
日々の暮らしや住空間に物足りなさを感じているなら、それは“お庭”で解決できるかもしれません。天気に関わらず洗濯物を干せる場所が欲しい、日当たりのいい場所でくつろげる時間が欲しい、家庭菜園に挑戦したい、雑草対策など手間のかからないお庭にしたい……。お庭を活用して、自然を取り入れた豊かな生活を送るためのヒントを日本各地のお庭づくりのプロフェッショナルに伺いました。

岡山県の南東部に位置する和気町。おだやかな田園風景が広がる場所を拠点にしながらも、その作風は独創的かつ挑戦的。“作家”を名乗る株式会社 美興プランニングの代表、髙本 興さんが考える自然浴生活をたずねました

「何もない」町から、美しいものを興す

美しいものを興(おこ)す。そんな志に自身の名前をかぶせた社名で髙本さんが美興プランニングを設立したのは2007年のことでした。拠点を構えたのは、岡山県和気郡和気町。

「妻の生まれ故郷なんですよ。何にもないところでね。市内から遠いし、商売を考えれば街中にショールームを置きたいんですけれど」

確かに、町の中央を流れる吉井川沿いにはおだやかな田園風景が広がり、田舎を表す常套句を使えば「何もない」土地と言えなくもありません。「でも、毎年お盆になるとね」。ショールームに設置したガーデンルーム越しの山を指差したのは髙本夫人でした。「あの観音山で和文字焼きが行われるんですよ」。促されてガラスの向こうに視線を移せば、小高い山の斜面に、京都五山送り火で有名な大文字焼きを彷彿とさせる“和”の字が……。

「その和文字焼きといっしょに、川の中州で花火を打ち上げるのがこの町の夏祭りです。開催日は、京都の大文字焼きと同じ8月16日。町中の明りを消すので空は鮮やかで、祭りはとても賑わうのですけれど、今年は7月の豪雨の影響で中止になりました」

おそらく山と川に挟まれた美興プランニングならば、山腹の灯も川の花火も同時に楽しめるのでしょう。それが今年に限りというのは、和気の住人でなくても寂しさを感じずにはいられませんでした。

さておき、奥様の素敵なお国自慢を聞けば、いかに髙本さんが謙遜しようとこの町に「何もない」はずがありません。何より設立10年を越え、県外にもその名が知れ渡った美興プランニングが和気にはあります。それもいささか小声でしたが、髙本さんによれば「ショールームに足を運んでくださったお客様の8割は施工を決めてくれます。こんな遠方まで来るのは、皆さんそれぞれ庭に対する強い想いを持っていらっしゃるからなんですよね」。

常に心掛ける基本は建築との調和

その想いに応える原動力となっているのは、髙本さん自身が外構やガーデンデザインに魅せられた“見映え”の美しさ。前職は土木工事。長く現場監督を務める間に、何度か庭づくりの依頼を受けたことがあったそうです。

「お客様に喜んでもらえたのがすごく嬉しかった。土木工事では、そんな経験はほとんどなかったですから。特にお客様と自分の想いが上手く合ったときの感動は最高で、それでこの世界に飛び込みました。業界のこと何も知らずに」

それが美興プランニング設立の2007年。以来髙本さんは、美しくカッコよく、つまりセンスの良さとは何かという大命題と格闘することになりました。常に心掛ける基本は、建築との調和。配置と色合いがガーデンデザインの全てを決定するので、お客様の要望に最大限寄り添いつつ、自分なりのアレンジを加えていくそうです。要素で重大なポイントになるのは緑。

「というか、緑なくして配置バランスは整いません。プライベート空間を生み出す外界との境をつくるには、木の高さを利用するのがナチュラルです。カーポートを設置する場合も、ただ置くだけでは家のファサード(建物の正面部分、門まわり)を崩してしまいます。それを防ぐ意味でも要所に樹木を配置するのは必要不可欠。自然物はガーデンデザインのバランスを取ってくれます」

ちなみに、美興プランニングの庭には“山採り”の木が数多く植えられています。“山採り”とは文字通り、山で自然に生えた樹木のこと。「それぞれ独特な曲がりを見せていますが、自然の中では何か理由や原因があって曲がったはずなんですよね。それをそのまま見せている姿が、僕はもっとも美しいと思います」

「景色の移り変わりから生まれる何気ない家族の会話も大事にしたい」

設立から11年。すでに500件以上の施工実績で培った評判は、独創性の高さ。当初からオリジナリティを意識してきた髙本さんにとって、それが自分の特徴、言葉を変えれば武器となった自負を持つだけに、名刺には“作家”という肩書を加えています。

「庭の見映えに感動したことをきっかけに、何も知らずにこの業界に飛び込んだ僕は、いわば独学でここまで来たので、世間一般のプランナーとは立場が違うんじゃないかという意味合いです」。またしても本人は控えめに語りましたが、土木工事のキャリアを活かし、自らのセンスを磨く努力を怠らない責任を背負った誇りを表すには、“作家”と名乗るのがもっとも適していると判断したのでしょう。

その作家活動、すなわち外構の作図を行うのは、およそ午前3時から4時の間。想像するに日中は、ガーデンデザインに関する実作業や施主のヒアリングに追われているはずなので、いったいいつ寝るのかとたずねてみたら、「午前5時には寝ますよ」と、さも当たり前のことにように言ったのでした。

「だいたい午前0時から下書きを始めて、午前3時くらいになると頭が冴えてきて、そこで一気に描き上げます。お客様の顔や声を思い出しながら。それが習慣ですね」

では、髙本さんにとって“自然浴”とは?それを活かすガーデンデザインとはどんなものなのでしょうか?

「自分のプランにいつも取り入れようとするのは、朝食のリビングから窓越しに眺める美しい庭の景色です」

ここでもまた髙本流の言い回しが出ました。果たしてなぜ朝食なのでしょう?

「朝はどんなに忙しくも、誰もがリビングを使いますよね。そこで食事をするとき、ほんの束の間だとしても窓の外を見るはずです。その景色から季節の移り変わりを眺める。春は芽吹き、初夏は新緑、秋になれば紅葉、冬なら細い枝。僕のプランニングに樹木が欠かせないのは、いつもと同じ窓でも、自然の変化によって心の動きを感じ取ってほしいからなのです。さらには、そんな景色の移り変わりから生まれる何気ない家族の会話も大事にしたい。ですから作家である僕自身、単に庭のデザインに頼るだけでなく、日々を自然に過ごせることを考えるのがとても大事だと思います」

要するに髙本さんが想定する自然浴生活とは、風や日差しや樹木といった自然物を取り込んだ庭づくりだけではなく、そこに住まう人が自然と寄り添いながら営むことができる“自然な暮らし”も含まれているのでしょう。そこまで深く思考を掘り下げる発想、やはりオリジナリティに富んでいるという他にありません。

見映え。作家。山採りの木。朝食のリビングの窓。そこから生まれる家族の会話……。前編では、髙本さんの独創的なデザイン力を窺わせるいくつものキーワードが登場しました。後編は、そのデザイン力を軸に、美興プランニングの実力を紹介します。

プロフィール

髙本 興

1973年生まれ。株式会社 美興プランニング 代表取締役社長。「日本のエーゲ海」と名高い岡山県牛窓町に生まれる。学生時代は空手、野球などに打ち込む。社会人になってからは大阪のパチンコ屋さんに4年、総合建設業で土木の現場監督を10年経験し、34才で独立し、株式会社 美興プランニングを設立。その翌年から10年連続で大手メーカーのエクステリア施工コンテストで表彰されている。


HP:http://www.bikouplan.co.jp/

Text:田村 十七男
Photos:松嶋 仁