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2018.09.14

カエデスタイル株式会社・代表取締役 藤田 一樹さん【前編】

花の色、土のにおい、風が木の葉を揺らす音……五感を刺激する自然を日々の暮らしに

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花の色、土のにおい、風が木の葉を揺らす音……五感を刺激する自然を日々の暮らしに
日々の暮らしや住空間に物足りなさを感じているなら、それは“お庭”で解決できるかもしれません。天気に関わらず洗濯物を干せる場所が欲しい、日当たりのいい場所でくつろげる時間が欲しい、家庭菜園に挑戦したい、雑草対策など手間のかからないお庭にしたい……。お庭を活用して、自然を取り入れた豊かな生活を送るためのヒントを日本各地のお庭づくりのプロフェッショナルに伺いました。

都市部で生活する人々にとって、“庭”とは、自然を取り入れた生活の最も身近な形と言えるかもしれません。しかし、現在の日本では家とお庭とが別々に供給されることも多く、そこから問題が生まれることも多々あると言います。そこで両者の垣根をなくし、“家”と“庭”とが一体となったライフスタイルをサポートしているのが、福岡市に事務所を置き、ガーデンエクステリア事業を展開するカエデスタイル株式会社の代表取締役・藤田 一樹さん。

見た目、手触り、におい……五感を通して知的好奇心を刺激してくれる自然

造園業を営む家庭に生まれた藤田さんは、一度外資系企業に就職したのち、地元福岡に戻ってカエデスタイルを設立。住居とのバランスをトータルで考えた庭づくりを提供しています。しかし、このお仕事を始めるまで、自然の魅力には気づいていなかったそうです。

「僕は福岡県内の田舎で育ちましたし、実家が造園業をしていたこともあって、小さい頃から当たり前のように庭や自然に触れていました。実家に大きな木があって、その木によじ登って双眼鏡を使って山を見たり、川遊びもよくしていました。カニを取ったり、フナを捕まえたり。でも、僕はたぶん、もともとは自然がそれほど好きな人間ではなかったんでしょうね(笑)。多感な時期になると、近くの山や川で遊ぶことよりも音楽やファッションに興味を持つようになって、友達と市街地に遊びに行くことが楽しくなり……。その時はむしろ、『何で自分の地元は田舎なんだろう……』と感じていたと思います(笑)」

とはいえ、小さい頃に自然と触れ合った経験から、藤田さんは大切なことを学びました。

「例えば、“自然”と一言で言っても、ふもとから見えていた木と、実際に近くに行って見える木とでは、全然受ける印象が違いますよね。近くに行って初めて、『幹肌ってこうなっているんだな』とか、『こんなにおいがするんだな』とか、色んなことを五感で感じ取ることができます。自然の中で遊ぶという体験は、そうやって知的好奇心を刺激してくれるものだと思います」

緑を取り入れた生活が快適な暮らしにつながっていく

そして現在では、カエデスタイルを通して多くのお庭づくりをサポートしている藤田さん。藤田さんが手がけるエクステリアガーデンの特徴は、スタイリッシュでモダンなデザインになっていること。そして、家の中と外との区別をできるだけなくすということです。

「実際に庭をつくり始めて感じたのは、そこに植栽があるだけで、その空間がすごく落ち着いたものになるということです。やはり、生活の中に緑がないと人間らしい暮らしとは言えないと思いますし、造園のことを勉強していく中で、“借景(敷地外の山や森林などの自然を敷地内の風景に背景として取り込むこと)”のように、色々な形で緑を日常生活に取り入れる方法があることも知りました。また、今の住宅は高気密化/高断熱化が進んでいますが、だからといって家に閉じこもるだけの生活は、やはりつまらないですよね。家にいながら外に出る生活=外に出やすい環境をどう整えていくかということが、これからの暮らしに大切だと考えています」

自然との距離が近い生活という意味では、海外の暮らしも参考になるかもしれません。そうした意味で印象的だと語ってくれたのは、アメリカのL.A.の風景。現地にホームステイをしていた藤田さんは、あの地域ならではの戸建ての家やお庭を見て回ったそうです。

「向こうはまず歩道の広さが違って、大きな街路樹がたくさん植えられていました。どの家にも青々と芝生が生い茂り、ガレージがあり……いわゆる“ザ・アメリカ”という雰囲気で。とにかく緑の量がとても多いんです。もちろん、日本とアメリカとでは人口密度が全く違いますが、それでも、緑を増やせないことはないと思います。家だけをたくさんつくるのではなく、スペースに少し余裕を持たせて植物を植えることはできると思いますし、そういった緑を取り入れた生活が快適な暮らしにつながっていくと思います」

家とお庭の垣根をなくすための挑戦

家とお庭との区別をつけないことで、お庭をもっといい空間にできる──。藤田さんのアイデアは、実際にカエデスタイルを訪れる方々とのやりとりから導き出したものでした。

「うちに相談にいらっしゃる方の7割近くが新築で家を建ててから1~2年しか経っていない方です。つまり、その短い期間にも『庭をやり直したい』など、何かしらの不満を抱えている方が非常に多いということですね。その理由は、最初に家を建てる時に、プラン的にも予算的にも庭のことを計算していないからだと気づきました。日本では住宅ローンを組む時にも、庭のプランや予算が十分に含まれていないことが多く、一度庭をつくってしまってから『もっと考えればよかった』と後悔する方が増えてしまいます。せっかく建てた家なのに、そこに妥協をして住むのはもったいないことですよね。ですから、外構やエクステリアのプロである僕らのような人間が家づくりの最初の段階から関わることで、より満足のいくお庭をつくっていきたいと考えています。当社は昔家を建てていたこともあるので、住宅に関する知識やノウハウもあります。それを有効活用して、家とお庭の垣根をなくしていきたいと思っています」

子どもたちに自然を五感で感じる暮らしを

確かに、日々の生活の中で家とお庭を別々のものとして捉えている方は少なくないのかもしれません。しかし、むしろその二つを横断しながら暮らすことでより豊かな生活が実現できる……。

「そもそも、家とお庭を分けて考えること自体がナンセンスだと思うのです。特に、戸建てのメリットは、やはり庭があること/地面があることです。それを最大限活かして、僕が子どもの時に土のにおいを感じたり、庭に生えている木や、花が実になる過程を観察したりしていたように、自然との思い出を小さいうちからつくってもらいたいと思っています。また、僕はお庭が特別な場所ではなく、当たり前のものとして暮らしの中にあってほしいとも思っています。そのためにも、庭で過ごす時間だけを切り離して考えるのではなくて、普段の生活にどうお庭が入っていくかということを考えていきたいです。その二つを一体にすることで、豊かな暮らしが実現できるかもしれません」

この前編では、家とお庭とをトータルで考えることの大切さを語ってくれた藤田さん。後編では、より具体的なお庭づくりのヒントや、社会のありようが変化していく中で感じている庭の今後に向けた可能性について、お話を聞いていきます。

プロフィール

藤田 一樹

1982年、福岡県生まれ。BMWディーラーでセールスを経験後、60年続く家業の造園業に転身。現場での修行や海外のまちなみ取材を経て、2011年、カエデスタイル株式会社を設立。「ライフスタイル主体の住まい」を重視する庭・エクステリアデザインのほか、ブランディングを含めた住宅地プロデュースや商業施設のランドスケープなどを手がける。


HP:http://www.kaede-style.co.jp/

Text:杉山 仁
Photos:次村 昭也