自然浴生活 SPECIAL SITE

SHARE

PROFESSIONAL

2018.10.26

有限会社 裕花園・代表取締役 西村 裕史さん【後編】

四季を利用した木の植え方、暮らしと共に変化と成長を続ける情熱のお庭づくり

SHARE

四季を利用した木の植え方、暮らしと共に変化と成長を続ける情熱のお庭づくり
日々の暮らしや住空間に物足りなさを感じているなら、それは“お庭”で解決できるかもしれません。天気に関わらず洗濯物を干せる場所が欲しい、日当たりのいい場所でくつろげる時間が欲しい、家庭菜園に挑戦したい、雑草対策など手間のかからないお庭にしたい……。お庭を活用して、自然を取り入れた豊かな生活を送るためのヒントを日本各地のお庭づくりのプロフェッショナルに伺いました。

「庭とは、外に出る行為を促す場所」と言った、滋賀県東近江市の裕花園 代表取締役 西村 裕史さん。後編では、造園業時代に魅せられた日本庭園のあり様を凝縮した施工例を引き合いに、西村さんならではのガーデンプランニングのアドバイスをお聞きします。

依頼を受けた瞬間、純和風のお庭が合うと感じた

前編の終わりで触れたように、後編ではまず、西村さんが大手メーカーのエクステリア施工コンテストで大賞を受賞したお仕事を紹介しながら、お庭づくりのアドバイスを伺っていきましょう。その施工例とは、日本建築を象徴するような伝統的かつ重厚な数寄屋門をシンボルとし、ため息が漏れるほど豊かな植栽を散りばめた純和風ガーデンです。

様々なコンテストを俯瞰してみると、和風の施工例が受賞するケースは稀のようです。それは、西村さんが前編で語った「日本庭園が似合う家が消滅しかかっている」という日本の建築事情の変化に鑑みれば、現代の住宅にマッチしたエクステリアが主流になるという実情に即した結果と言えるのでしょう。

しかし、この一見した限りでは個人宅に思えない豪勢な純和風ガーデンの依頼が、造園職人時代から日本庭園に魅了され続けている西村さんのもとに舞い込み、しかも大きな賞まで手にするという流れには運命的なものを感じずにはいられません。

「確かに、こんな仕事は滅多にできませんね。ガーデンプランはすべてお任せという、当初のオーダーからして特別でした。この施工にはもう一社の競合がいました。後で聞いた話ですが、先方には数寄屋門の提案などなく、壁もブロックを積むだけで、しかもかなり安かったそうです。ですが僕は最初から、完成形に近いプランを出しました。いや、最初から競合のアイデアを知っていたとしても、僕なりのプランを緩める気はまったくなかったです。その庭にはやはり、純和風が似合うと思いましたから」

これも前編でお伝えしましたが、西村さんの印象は温厚そのもの。口調もそれにふさわしいおだやかさをたたえています。ですが純和風ガーデンにはよほどの思い入れがあったのか、この施工例に関する説明は、日本庭園の魅力を語ったとき以上の熱を発していました。

木を植えてからの庭の変化や成長を楽しんで欲しい

おそらく西村さんにすれば、個人の望みと社運を賭けた一大事業だったのでしょう。では、特別なオーダーに対してどんな庭をつくろうとしたのでしょうか。

「日本庭園と言えば、水、石、植栽、景物の4大要素で構成するのが基本ですが、それらを取り込んだ上で、その庭に山をつくりたかったのです。大好きな京都の梅小路公園内の日本庭園をぎゅっと凝縮したような。しかも里山ではなく、かなり深い山奥のイメージで。そこで近くの山々を探索しました。何がどう生えているか、この目で確かめたくて」

それもやはり、庭とは外に出る行為を促す場所という、西村さん流の定義を表現する過程で必要不可欠なことだったのですか?

「四季を感じられる場所としても、自然のままの山を知っておきたかったのです。この庭、家のまわりをぐるっと歩ける回廊形式にして、ところどころに生活に欠かせない物干し場や駐車場を仕込み、それらを隠すように自然の雑木を置きました。しかし、どんな庭にも広さに制限があるので、仮に一本だけ木を植える場合でも、僕は季節毎の陽射しに合わせた木を選んでご提案します。夏の強烈な西日に晒される場所なら、それに耐え得る種類を。あるいは北側の窓の外なら、冬に葉が落ちる種類を植えて日光を積極的に取り入れるというのがお勧めです。視覚的に四季を感じる部分も大事ですが、木の種類で四季を利用するというのも、ガーデンプランニングに欠かせない重大事項です」

四季を利用する木の植え方という話。植栽の妙を愛でる日本庭園が好きな西村さんから聞くと、深く納得してしまいます。

「たとえ一本でも庭に木を植えてほしいと僕が願うのは、見映えの観点だけでなく、木を植えた時点から変化していく庭を楽しんでほしいからなんですね。細い木がそれなりの太さを持つには10年近くかかります。その時間とお子様の成長を重ね合わせるのも、自宅の庭だからこそできる特別な思い出作りになるはずです。何より僕らは、施工が終了した時点で庭が完成するとは考えていません。そこに住む方の暮らしぶりと共に変化と成長を続けるのが庭本来の姿ですから」

お庭づくりは値段よりも想い。情熱のほうがずっと大切

そんな話を聞いた後で時間の長さを縮めるような質問になりますが、この純和風ガーデン案件は、提案から完成に至るまで任せっきりだったのでしょうか。無論、事前に詳細な完成予想図を提示し了解を得るにせよ、工期中の信頼はどのように担保するのでしょうか?

「そこは人間性を見ていただく他にありません。自分でもことさら大事だと考えていますが、どんなときも謙虚であれと、そう思っています」

その発言、実は裕花園がある五箇荘に生まれ育った有名な近江商人、外村与左衛門家に代々伝わる『心得書』に記された、「信用のもとは正直。正直は人の道」という商人の理念に符合するのです。西村さんは会って早々、「僕は商人の血を引いていない」と言ったのも、この段になって思えば謙虚さの表れだったのかもしれません。 では最後に、お客様にはどんな依頼のされ方が望ましいかをたずねてみました。

「庭づくりに情熱を持ってきていただけると嬉しいです。具体的なプランではなく、どんな風に暮らしたいか、どんな庭にしたいか。そのイメージさえあれば、あとは様々なアイデアを提供します。というより、何が必要で何が不要かを正しく説明するのが業者の役目です。予算に見合わない理想であろうと、まずは話してもらうことが大事ですね。僕は常々、最初にご提示された予算を上回るプランをお出しするようにしています。それは、お客様の理想以上を提案したい想いと、自分がこの家に住むならこうしたいという願望を込めるから。もちろん、そこから現実との擦り合わせが始まりますし、お客様にすれば安いほうがいいことも知っています。でも、『うちは安い』と言いません。そこでは勝負しない。値段よりも想い。情熱のほうがずっと大切です」

そんなセリフの信憑性を裏付けるのは、徹底的に入れ込んだ純和風ガーデン案件のエピソードの数々でしょう。信用と正直。今を生きる近江商人を見た思いがしました。最後は、その純和風ガーデンの後日談で締めます。

「施工が終わってしばらくしてから、お客様から写真が届きました。庭の雪景色です。冬場も想定してプランニングしましたが、実際の様子は格別ですね。わざわざ伝えてくださったお客様の気持ちが何より嬉しかったです」

プロフィール

西村 裕史

有限会社 裕花園 代表取締役。高校卒業後、造園業の世界に入り10年間経験を積む。その後2004年に独立、「裕花園」を立ち上げる。造園業時代に日本庭園の奥深さに魅せられ、その植栽を取り入れたガーデンプランを提案。自身も日本庭園好きで、おすすめは京都の梅小路公園の中にある庭園。


HP:http://yu-kaen.com/

Text:田村 十七男
Photos:松嶋 仁