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PROFESSIONAL

2018.10.19

株式会社 大興・代表取締役 中村 清隆さん【後編】

人も庭も老いるから。自らの技術を磨きつづけることで、未来の庭をつくる

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人も庭も老いるから。自らの技術を磨きつづけることで、未来の庭をつくる
日々の暮らしや住空間に物足りなさを感じているなら、それは“お庭”で解決できるかもしれません。天気に関わらず洗濯物を干せる場所が欲しい、日当たりのいい場所でくつろげる時間が欲しい、家庭菜園に挑戦したい、雑草対策など手間のかからないお庭にしたい……。お庭を活用して、自然を取り入れた豊かな生活を送るためのヒントを日本各地のお庭づくりのプロフェッショナルに伺いました。

一目でどこが手掛けたかわかるほど個性的な曲線の壁を得意とする埼玉県久喜市を拠点とする株式会社 大興。後編では、前編の終わりで自分たちならではの庭の使い方を提案すると語った代表取締役の中村 清隆さんに、より具体的な庭づくりのアドバイスを伺います。

実体験から生まれるリアリティのある提案

優雅な弧を描く曲線の壁を始めとする、独特の技術を誇る大興。機能だけでは終わらせない庭を提案すると語った代表取締役の中村さんに、まずお客様は最初に何を用意して庭づくりを依頼すればいいかを聞いてみました。

「具体的なところでは、土地と家の図面が必要です。後は私たちが現場を拝見し、門から庭、家の玄関に続く流れや、隣の家との間隔を確認できれば、およその提案ができます。が、最も大事なのは、庭で何をしたいか、どう使いたいかというお客様自身の考えです。ただし、細部に渡って詳細なプランを考えられなくても全く構いません」

その一言は、「機能だけでは終わらせない庭づくりの提案」を大興に任せてほしいという頼もしさにつながるのでしょう。ただし、より漠然とした、つまりは「庭で何をしたいか」という出発点にすら明確なイメージを持てないケースもあるのではないかと思うのですが……。

「その点からアドバイスするには、私たち庭づくりを行う者自身がいろんな庭の使い方を試してみなければなりませんね。身を持って体験したものでなければお客様にお勧めできせんから」

そこで中村さんが挑んだのは、自宅の庭の全面改修工事です。約40年前に大興を創業してから二度目のことになるそうです。

「門もカーポートも、古いものは全て取り壊してつくりかえます。家の壁も塗り替えます。そこまで一気に変えるのはまさに大掛かりな実験になりますが、それは必ずしも大興の取締役として商売に活かすためだけはありません。というのは、私も妻も歳を重ね、子どもも大きくなり、家での過ごし方、あるいは庭の使い方が家族全般で変わってきたという一個人の人生の変化に直面し、新たな庭づくりの必要性を感じた結果でもあるのです」

現在のマイナスポイントを探す、未来の暮らし方をプラスする

自らの庭づくりの実体験を、お客様の不安や悩みを解決する手立てとして活かしたい。それが中村さんの考えになるわけですが、お客様にしても単なる業者の提案ではなく、実際に庭づくりをした人の意見ともなれば大いに参考になるでしょう。では中村さんは、今回の工事を始めるに当たり何から始めたのでしょうか?

「これから庭づくりを始めようとするお客様の参考になれば嬉しいですが、自宅の庭を眺め、私は最初にマイナスポイントを探しました。現状、どこが使い切れていないのか。どこが使いづらくなっているのか。そこを徹底的に洗い出しました。私は今年63歳で、現在の庭になってから約20 年の歳月が過ぎています。ですから、その当時は最善だと考えてつくった部分も、時が経てば、最悪に変わったと言わないまでも、今の自分では疑問を抱かざるを得なくなります。私にとってこの時点で重要なのは、さらに歳を重ねた将来の暮らし方に合った庭づくりを計画することです。一つのポイントはスロープのつくり方ですね。自分であれ妻であれ、やがて必要不可欠になるかもしれない車椅子を使う生活、いわゆる老後を念頭に置かなければなりませんから」

高齢化社会を見据えた中村さんの実験

この話題、誤解を招かないよう始めにお断りを入れておきますが、大興では若い年代のお客様には相応のスタッフが対応するので、必ずしも高齢者のための庭づくりだけが得意ではないということ。そしてまた、中村さんもまた、若い頃に行った最初の庭づくりで得た経験を基にアドバイスできるということです。とは言え、高齢化が叫ばれて久しい社会を踏まえれば、中村さんの実験は今後より多くのお客様にとって切実な観点を含んでいるかもしれません。

「今の庭では、家の玄関から庭先の門まで段差があるんですね。そこになだらかスロープを設ければ、車椅子でも歩きでもつまずく恐れなく安心して移動できる。しかし現実には有効な幅を確保できるほどの広さがない。であれば、掃き出し窓から庭に向けてスロープをつくるべきか。その辺はしっかり研究して答えを出さなければなりません。無論、自分たち家族のためではありますが、そこはやはりどうしても仕事の顔が出てきますね。より良い解決法が見つかれば、自信を持ってお客様にお勧めできる新たなメリットが得られる、という……。それもまた、かつて曲線を描く壁の技術を体得したときと同じように、自分がレベルアップをするためには避けられない挑戦です」

ちなみに、2018年1月に始まった中村邸の庭改修工事は、半年を越え夏が過ぎても完成に至っていません。理由はシンプルです。お客様の庭づくりを優先しているからです。

お客様の要望を超えるために、常に技を磨く

ここで改めて、お客様に向けた庭づくりのアドバイスを伺ってみました。しかし中村さんは、先に触れた「細部に渡って詳細なプランを考えてこなくても構わない」という持論から、ご自身たちの心構えを語りました。それはおそらく長きに渡ってお庭・エクステリア専門でやってきた中村さんの経験則と信条によるものでしょう。

「庭で何をしたいか。それを見極めるためにマイナスポイントを探すという私なりの方法が役立てば何よりですが、私たちが常に心掛けているのは、お客様の要望をお聞きした上で、それを超える提案をするということです。共働き夫婦が増え、家も庭も機能優先となり、デッキを設けても洗濯干し場にしか利用されないのが現状だという話もしましたが、それもやはり、庭をどう使えばより楽しい暮らしができるかをこちらからお伝えしなければならないと思うのです。それが可能になるよう、私たちは物真似ではない、私たちにしかできない技術、他に負けないデザイン力を身につけてきました。いずれにせよ、まずは自分たちが考える。それが何より重要ですね」

最後にお聞きします。庭づくりの心得とは?

「自慢できる場所にすることです」

中村さんのお話を聞いて感じたのは、貫録でした。しかしそれは、創業から40年近い実績に胡坐をかいたものではなく、中村さんの発言で飛び出した「レベルアップ」という言葉や、自宅の庭を実験材料にするというエピソードから窺えた、自信を随時更新していくチャレンジングな姿勢から醸し出されるものなのでしょう。端的に言えば、任せて安心。可能であれば、中村邸の新しい庭もぜひ見せていただきたいところです。

プロフィール

中村 清隆

1954年生まれ。株式会社 大興 代表取締役。ものづくりが高じて18歳の時に住宅のブロック壁の職人として仕事を始める。1981年に現在の株式会社 大興を設立。その後、埼玉県久喜市にエクステリア展示場を開設し、約40年に渡り埼玉県の他、東京都や千葉県にも最良のお庭やエクステリアを提供している。大手メーカーのエクステリア施工コンテストでは27年連続入賞。


HP:https://daiko-ex.jp/

Text:田村 十七男
Photos:大石 隼土