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2018.10.12

グリーンライフ産業株式会社・代表取締役 中村 太郎さん【後編】

“鑑賞する庭”から“活用する庭”へ。暮らしを豊かに、家族を幸せにする空間づくりとは?

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“鑑賞する庭”から“活用する庭”へ。暮らしを豊かに、家族を幸せにする空間づくりとは?
日々の暮らしや住空間に物足りなさを感じているなら、それは“お庭”で解決できるかもしれません。天気に関わらず洗濯物を干せる場所が欲しい、日当たりのいい場所でくつろげる時間が欲しい、家庭菜園に挑戦したい、雑草対策など手間のかからないお庭にしたい……。お庭を活用して、自然を取り入れた豊かな生活を送るためのヒントを日本各地のお庭づくりのプロフェッショナルに伺いました。

九州地域を中心にエクステリアガーデンの専門店「グランド工房」を展開するグリーンライフ産業株式会社。前編では代表 中村 太郎さんが先代・中村 和男さんとの思い出も交えながら、緑やお庭のある生活の魅力を語っていただきました。造園業を営む家庭に生まれ、幼い頃から緑や自然に親しみながら育った中村さんですが、お庭には「“あるべき機能”の定義がない」と言います。その心は……?

“あるべき機能”の定義がないからこそ広がるお庭の可能性

「例えば住宅の場合は、雨風がしのげて、水回りがあって、お風呂やトイレがあって、キッチンがあって──と、ある程度必要条件を満たしていなければ成立することはありません。ですが、お庭の場合はそういった“あるべき機能”の定義がないのが特徴だと思います。むしろ、何もないところに新たな価値が現われるような魅力があると思うのです。あって当たり前のものが、何か新しいものに変わるのではなく、そこにゼロから新しい価値が生まれていく。そうした部分には、私たちとしても非常にやりがいを感じています。もちろん、だからこそ難しい部分もありますが、お客様に喜んでいただいたり、満足していただいたりした時には、その喜びはとても大きなものになります」

お客様が相談にやってくるきっかけは、大半が日常生活の困りごと。中には手入れのできていないお庭を眺めることがストレスになり、非常に悩んで相談に来られる方もいるそうです。

「お客様のほとんどは、最初は“困りごと”から相談に来られます。『こういう問題を解決したいので、相談をしたいです』というお話がほとんどですね。けれども、お話を伺っていくうちに、それだけではなく、『こんな理想の生活がしたい』『こんな景観がいい』という、お客様の想いが見えてくるのです。そこからが私たちの腕の見せどころで、お客様ができるだけ快適に、より理想的な生活が送れるように、空間を考えていきます。そのためにも、ただ困りごとを解決するだけではなく、全体のバランスなども見ながら、色々なご提案もさせていただきます。結果として、特に喜んでくださる方というのは、こちらのご提案がお客様にとって想定外だった場合の方が多いかもしれません」

「お庭をどうしたらいいのかわからない」という不安にも向き合って

現在は代表取締役として、会社経営のかじ取りをしている中村さんですが、現場でお庭づくりに携わっていた頃には、お庭によってお客様のライフスタイルが大きく変化していく瞬間に何度も出会ったそうです。その一つが、「お庭に何を求めているのか自分でも分からない」という方との出会いでした。

「そのお客様はもともとお庭に興味があったにも関わらず、ご夫婦で庭付きの家を買ってしまったために、『お庭をどうしたらいいかわからない』と悩んでうちにいらっしゃいました。ですから、こちらがどんなお庭をご希望か聞いても『それがわからないから来ました』と言うのです。詳しくお話を聞いていくと、そのご夫婦はもともと社宅にずっとお住まいになっていて、それまで自分の意志で住む場所や家を決めた経験がなかったのだそうです。ですから、私が『どんな生活がしたいですか?』と伺っても、その方はなおさら困ってしまう。そこで、私の方から積極的に提案させていただいたところ、その中の一つを採用していただきました。あまりに全てこちらの好きなように提案させていただいたので、その時点では『本当に満足していただけるだろうか?』と不安に思っていました。ですが半年か1年後、お電話をいただいてお宅に伺ったところ、そのお庭にはきちんと家具が揃えられており、ご夫婦でお庭のある生活をとても楽しんでいらっしゃる様子を肌で感じられたのです。窓から見える場所には鳥かごまでできていて、『鳥が来るようになったんですよ』と嬉しそうに報告してくださった時には、『もしかしたらこの方の人生に対して、いい影響を与えられたのかもしれない』と嬉しくなりました」

お庭をつくる方々は決してお庭のプロではないからこそ、実現できることが全てわかるわけではありません。だからこそ生まれる不安や躊躇を、正しい情報を伝えることで払拭していくことも大切だと、中村さんは語ります。

「お庭という場所は、ご家族や住まれる方々が幸せを感じられる場所だと思っています。お庭があることでご家族のコミュニケーションが生まれ、自然と触れ合う機会ができ、美しい景観を楽しむことができます。そうして日々の生活を楽しんでいただけるような空間をサポートするのが、私たちの仕事です。日本では“お庭を整える”ということに対して、『贅沢をしすぎなんじゃないか』『身の丈に合っていないんじゃないか』と感じている方が、まだまだ多いように感じます。けれども、お庭という場所は、うまく整えることで、ご家族にとってかけがえのない大切な空間になりえるものだと思います」

“眺める庭”から“使える庭”へ。そこに住む人のライフスタイルを豊かに

では、これからのお庭について、中村さんはどんな可能性を感じているのでしょうか?

「これは実際に少しずつ進みつつあることですが、室内にあるものと同じようなものが、外(お庭)にも出ていくという流れはあると思います。欧米でも日本でもそうですが、料理も食事も、照明も水回りも、様々なことが、室内だけでなくお庭でも楽しめるようなものになりつつあります。日本でも近年は急速にそうした方向に向かっていますし、アメリカやオーストラリアなどでは、そうしたライフスタイルはとても一般的なものとして存在しています。つまり、“眺めるお庭”から“使えるお庭”へと、お庭の役割自体が変わっていくということです。そのためには、お客様と近い位置で、気軽に相談できるような環境も大事だと思います。グランド工房を地域密着型の多店舗展開にしているのは、お客様にとっていつでも気軽に相談できる、身近な存在でありたいと願っているからでもあります」

人口が密集する日本の住環境では、お庭のスペースが十分に取れないケースも多く見受けられます。しかし、最も重要なのは、そこで暮らす方々のライフスタイルに合ったものだということ。そうして生まれる空間がそのご家族にとって理想的なものであることが、何よりも豊かな生活へとつながります。

「敷地が広くても狭くても、お客様のニーズは、実は変わらないことの方が多いんです。また、広ければ広いほどいいお庭かというと、そうとも限りません。敷地の狭い方の場合でも、室内と同じ高さにお庭を上げてあげるなど、室内とお庭とのつながりを良くすることで、実現できることや改善できることはたくさんあります。お庭はご家族やその場所に暮らされている方々のためのスペースですから、それぞれの場所や条件に合ったものをご用意することが、何よりも大切なことだと思っています」

毎日接する身近な場所であるからこそ、お庭を豊かにすることで、ライフスタイルそのものが豊かになっていく。中村さんのお話を通して、私たちが自然を取り入れて生活するための、有効なヒントを見つけることができるかもしれません。

プロフィール

中村 太郎

1974年生まれ。グリーンライフ産業株式会社 代表取締役。東海大学経営学部卒業後、ゼネコンに就職。2001年エクステリア&ガーデンアカデミー卒業後、家業であるグリーンライフ産業株式会社に入社。2003年取締役営業本部長、2005年常務取締役を経て2012年代表取締役に就任。


HP:https://www.ground-f.com/

Text:杉山 仁
Photos:次村 昭也