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2018.09.28

有限会社 裕花園・代表取締役 西村 裕史さん【前編】

人間は自然と緑と生きていくもの。日本庭園の基礎は現代の庭へつながる

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人間は自然と緑と生きていくもの。日本庭園の基礎は現代の庭へつながる
日々の暮らしや住空間に物足りなさを感じているなら、それは“お庭”で解決できるかもしれません。天気に関わらず洗濯物を干せる場所が欲しい、日当たりのいい場所でくつろげる時間が欲しい、家庭菜園に挑戦したい、雑草対策など手間のかからないお庭にしたい……。お庭を活用して、自然を取り入れた豊かな生活を送るためのヒントを日本各地のお庭づくりのプロフェッショナルに伺いました。

近江商人発祥地とされる滋賀県東近江市の五箇荘に事務所を構える有限会社 裕花園。独立以前の造園業時代に日本庭園の奥深さに魅せられた代表取締役の西村 裕史さんは、現在も常に植栽を頭の隅に置き、自然を取り入れた生活が楽しめるガーデンプランを提案しているそうです。

  • 有限会社 裕花園の事務所。和風のつくりが目を引きます。

自然を感じられる一本の木、それだけで庭の形が柔らかに

日本最大の面積を誇る琵琶湖を包むように広がる滋賀県。その南東部に位置する東近江市の五箇荘滝田町は、かつて日本三大商人に数えられた近江商人の中でも、江戸時代後期から活動を始めた五箇荘商人の発祥地。そう説明してくれたのは、裕花園の代表取締役、西村 裕史さんでした。

その裕花園には、この地の歴史を反映するような立派な和風の門があります。西村さんが手作りしたものだそうですが、ご自身も和風に興味があり、中でも日本庭園には独立以前から格別の魅力を感じてきたと話してくれました。

「京都の梅小路公園の中にある庭園。僕の大好きな庭の一つです。ぜひ一度見て欲しい」

1995年に開園した梅小路公園は、京都市下京区にあったJR貨物梅小路駅の跡地に、平安遷都1200年を記念してつくられた10.5ヘクタール(※東京ドーム約2個分)の広大な公園です。西村さんが勧めるのは、園内の「朱雀の庭」です。

「日本庭園は水、石、植栽、景物の4要素で構成するのが基本ですが、言うまでもなく梅小路の日本庭園は基本を忠実に守った上で、京都の伝統的な作庭技術を活かした見事な造形を見せています。もっとも斬新なのは、そこに元から自然の山があったような造りです。何度足を運んでも感動しますね」

造園のプロが熱を帯びて語る程の見事さなら、その素晴らしさをこの目で確かめてみたいと思いました。ただし、重機を用いて造園する公園と、我々が自宅に構える庭は別物。そこで、現在の裕花園がその範ちゅうとする一般的な庭とはどのようなものか、自然浴生活のあり方と併せて西村さんの考えをたずねてみました。

「自然浴を軸にするなら、森や林といった自然の原風景が感じられるものを家の近くに持ってくること。庭とはそれを置く場所であり、ガーデンプランはその実現手段です。そして、造りが和風であれ洋風であれ、庭でもっとも大事なのは、外に出ようとする行為を促す場所にすることじゃないでしょうか。現代の家は空調が行き届いているので、むしろ外に出ないほうが快適に暮らせる。でも、人間は季節と共に生きるものですから、やはり四季を感じられたほうが気持ちいい。自然浴生活は、その気持ち良さを存分に味わいたい暮らしのことですね」

  • 事務所の敷地内には美しい庭園があり、季節の移り変わりを楽しめる。

外に出たくなる行為を促す庭に必要不可欠な要素とは?

「やはり緑です。季節を感じられるのは木ですから」

それは和風の庭園に限らず?

「造園経験がある僕にすれば、常に日本庭園が頭の片隅にありますが、現実的に植栽を要する和風の庭をご希望される機会は少なくなりました。日本庭園が似合う家、例えば自宅で法事ができる仏間が消滅しかかっているというような建築自体の変化もありますから、それは仕方ないところです。あるいは、虫の寄りつきや手入れの手間を理由に緑が嫌われるケースも少なくない。それでも最低一本の木はお勧めしたいですね。季節を感じ取れるものが家のそばにあると、視覚的にも情緒的にも、庭の形が柔らかくなりますから」

ちなみに西村さんが好きな木はモミジ。秋の紅葉が楽しみなのはもちろん、葉が薄く柔らかいので、夏の日差しでできる陰影の優しさに涼を感じるそうです。「意外に強いので育てやすいメリットもあるんですよ」

いつか独立する夢を叶えるため、機械科から造園業へ

ここで話題は西村さんの経歴に移ります。ちなみに、五箇荘でご商売を始めたのは近江商人の血筋に関係しているのかとたずねたら、「ここは祖母の故郷で、僕が生まれたのは隣町だから、僕自身は商人の血を引いていないはず」と返されました。

「高校は機械科だったんですけどねぇ」。写真の通り、西村さんの印象は温厚そのもの。口調も実におだやかです。

「3年生の夏休みになると、先生から進路の決断を催促されますよね。工業高校に進学してクルマも好きだったから、自動車整備方面に行くのが妥当だったのかもしれませんが、ふと、本当にふと、植木職人の姿を見かけて、これいいなあと思ったんです。バカボンのパパみたいで」

当時の担任に話したらやはり「笑われた」らしいのですが、18歳の西村さんにはおぼろげながらも真剣な野望があったのです。

「独立して商売をしたいという夢がありました。それは職人なら叶うかもしれない。何より植木職人ならハサミとハシゴがあれば十分だと思えた。今となってはめちゃくちゃ甘い願望でしたけどね」

造園業で10年の経験を活かして西村さんが独立を果たしたのは2004年。「裕花園」という社名は、造園業の別称として使われる花園に、西村さんの名前から一文字取って付けたもので、造園業で伝統的に採用されているネーミングだそうです。

デザイン性の高いきめ細かな技術に感動

造園業時代に日本庭園に魅せられたこともあり、独立後も造園中心で行くつもりだったという西村さん。その考えを変えさせたのは、ある一つの応援要請でした。

「これもふと、というか、たまたまなのですが、同じ滋賀県のエクステリア専門店さんから、『うちの仕事を手伝って欲しい』という連絡を頂いたのです。現場に行って驚きました。こんなおしゃれでデザイン性が高い外構があるのかと。僕が知っている壁はブロックを積むだけだったのに、そのエクステリア専門店さんはガラスや化粧板をふんだんに取り入れる壁をつくっていました。仕上がりの美しさに驚くと同時に、なんて楽しそうな仕事なんだと思いました。依頼を受けたのは独立して二か月後でしたが、これは自分も取り入れるべきだとすぐに考えが改まりまして……」

大掛かりな造園と、一軒家の外構。その違いはどんなものでしたか?

「自分が和風寄りだったから、デザイン性が高い一軒家の仕事を洋風と区別したのではなく、技術的な部類の違いだと感じました。家の外構、エクステリアは、左官屋さんがするきめ細かい手仕事に近いですね。それまでは主に公共工事の造園が主でしたが、公共工事と言っても大小あり、僕は小さいのも得意だったので、何とかやっていけるだろうと。とは言え、造園を目指した高校生の頃程甘い考えはなかったですけれどね」

このエピソードを持ち出したのは、現在の裕花園が和風に偏っていない事実を紹介したかったからです。西村さんに裕花園の特徴をたずねたら、そこは近江商人発祥地に拠点を構えるだけに、即座に「何でもやります」という答えが返ってきました。 ですが後編では、やはり和風庭園を、しかも大手エクステリアメーカーの施工コンテストで大賞を受賞した、超ド級と言って差し支えない程の施工例を中心に据えつつ、西村さんならではのガーデンプランニングを紐解いていきます。

プロフィール

西村 裕史

有限会社 裕花園 代表取締役。高校卒業後、造園業の世界に入り10年間経験を積む。その後2004年に独立、「裕花園」を立ち上げる。造園業時代に日本庭園の奥深さに魅せられ、その植栽を取り入れたガーデンプランを提案。自身も日本庭園好きで、おすすめは京都の梅小路公園の中にある庭園。


HP:http://yu-kaen.com/

Text:田村 十七男
Photos:松島 仁